2015年11月号 特集 「老舗通販の未来」

通販ほど「時代」が反映される業態はない。社会やメディア環境が目まぐるしく変化していくなかで、成功企業とはいえ常に新たな挑戦を迫られるのは通販の宿命かもしれない。そのような点において、ひとつのスタイルを確立しているのがスクロールだ。全国の婦人会から圧倒的な支持を受け、通販として初の上場を果たした誰もが認める「老舗」であると同時に、そのイメージとかけ離れたような斬新な挑戦を続けている。今年5月に取締役社長に就任した鶴見知久氏に、老舗企業が目指す「未来」について聞いてみたい。

株式会社スクロール 会社概要

商号  株式会社スクロール(Scroll Corporation)
本社  静岡県浜松市中区佐藤二丁目24番1号
電話番号  053-464-1111(代表)
設立  1943年10月1日
資本金  5,812百万円(2015年3月31日現在)
売上高  44,791百万円(2015年3月期)
連結売上高  63,555百万円(2015年3月期)
決算期  3月31日(年1回)
株式上場  東京証券取引所市場第一部
従業員数  304名(2015年3月31日現在 個別) 526名(2015年3月31日現在 連結)
代表取締役会長  堀田守
取締役社長  鶴見知久

 

■顧客ターゲットをいかに設定するか

総合通販と同じポータルサイトではなく、ブランドごとの「縦軸戦略」に特化

―まずはムトウからの長い歴史のなかで、時代によって顧客というものがどう変わっていったのかというお話を聞かせてください。

鶴見 以前の社名であるムトウの創業は1939年。軍需産業の縫製工場でスタートしました。戦後になると、創業オーナーが工場のものを直接お客さんに届ける、いわゆるダイレクトマーケティングを開始したのですが、そこでターゲットにしたのが、全国の地域で奥様方が活動している「婦人会」という団体。その活動着として「トッパー」という割烹着の上から着られる衣料を出したところ大ヒットとなったのです。そこで作った婦人のチャネルを活用するというのが当社のカタログ通販のルーツですね。生地サンプルなども付けたカタログを持って我々の先輩たちがオートバイで全国を売ってまわったそうです。それが訪問販売の組織などにも発展して、上場へのけん引役になったわけですね。その後、世の中やメディアがだんだん変わっていくなかで、ターゲットが主婦であることに変わりはありませんでしたが、新たにF1層が加わります。カタログ通販というものの認知が高まってきたということもあり、私が入社する2年前の1987年、当時の社長が他社に先駆けてF1層へ向けたアパレル通販カタログ「ラプティ」を始めました。

―当時はバブルですが、このような社会背景も関係していたのでしょうか。

鶴見 先輩たちから伝え聞くところによると、確かに働く若い女性を支援したいということもあったようです。私が入社した時代はようやく女性が総合職で採用され始め、女性が社会の最前線で活躍する未来が囁かれていました。実際に我々もアパレルで獲得したお客さんに対して、インナー、生活雑貨、化粧品、さらに当時はブランド品などまで提供しようという総合通販という形へと移行していきました。一人のお客さんにあらゆるものを買っていただくという、いわゆる今でいうデータベースマーケティングですね。しかし、その後にインターネットが出現したことで、このような売り方をどうするかということですごく悩んだ瞬間があったのです。

―それはどういうことでしょうか?

鶴見 他の大手さんはみなポータルサイトを作って、その中にいろんなカタログブランドを入れるという作りにしていたのですが、それと同じことをやっても勝てないという悩みです。当時、総合通販大手と我々は既に水をあけられていましたので、同じ戦略を行っても差は縮まりません。そこで我々はポータルではなく個別に生活雑貨サイト、ラプティサイトなどカタログブランドごとにサイトを作る「縦軸戦略」という道を選びました。そもそもネットはロングテールでニッチなところにスポットを当てていくメディアなのですから、ポータルではなくひとつのブランドごとに強化しようというわけです。

マーケットや顧客の「変化」に気づき、ビジネスや商品を組み立てるのが通販

―総合通販ではなく、ある分野に絞って専門性をより深めていくという戦略ですね。

鶴見 そうです。他社さんは若い世代から上の世代まで網羅的にカバーしているので、F1だけに注力してより深く入っていく「脱・総合通販」というスタンスをとったのです。通販の総合的な規模というより、F1層に特化した紙のカタログでアパレルや生活雑貨によりフォーカスして自分たちの立ち位置というか、ユニークさを極めることができればと考えました。まだ明確な結論は出ていませんが、当時の我々が取る戦略としては正しかったんだろうと思いますね。

―このような大胆な方針転換ができる柔軟さは企業文化なのでしょうか。

鶴見 そもそも通販というのはチャレンジのなかで育ってきました。店舗という現在も揺るぎない一大チャネルである一般流通に対して、カタログという媒体があれば勝負ができるということで立ち向かっていったところがある。その後もそれぞれの成長段階を振り返ればやはりチャレンジの連続だったと思っています。逆に言えば、通販というのは店舗がないので、常にマーケットやお客さんの行動を見て、細かい変化に気づいてビジネスや商品を組み立てていかないと成長ができない業界なのです。その精神というものは我々に限らず、「老舗」と呼ばれる通販企業には受け継がれているんじゃないでしょうか。

―このような戦略を経て、現在ではターゲットをどこに定めているのでしょうか。

鶴見 ご存知のとおり少子高齢化のなかで、シニアマーケットは拡大しています。その一方でF1を含めたところは完全に衰退期に入ってきています。かつてF1層の象徴だった「ラプティ」もF1層のアパレルからは撤退しました。そのような意味では、グループ全体としてシニアマーケットへ向けたビジネスに照準を合わせて進んでいくという方向性は、大きくは揺るがないのではないでしょうか。

―そのようなシニアターゲットへの移行においても、かつてF1層の時に打ち出した「縦軸戦略」は踏襲されているのでしょうか。

鶴見 そうですね。社内では「シニアをマスで捉えるな」というのは共通項となっています。ひとくちに「シニア」といっても、これだけ高度な消費社会で、みなさん多様なニーズを持っています。シニアマーケットというのは限りなくミクロな市場の集合体だと考えるべきでしょう。一つひとつのミクロの集合体を、自分たちでいかに見つけて、そこで商品やサービスを提案していくのかが大切だということを社内ではよく議論していますね。ですから、スクロールグループのシニア事業においても、ミクロ市場を前提に事業体がいろんなオファーやアプローチをしていくという組み立てになっています。

 

■グループ会社と連携、その相乗効果は

「コスメランド」や「AXES」というスクロールでも珍しい「際立ったサイト」

―スクロールの「脱・総合通販」が本格的に加速化していった背景には何がありますか。

鶴見 楽天さんやヤフーさんといった多様な商材を扱う全国のユニークなショップの集まりができて、これ自体が総合通販の役割を果たすようになった時、メディアは必ずネットに取って代わるだろうという脅威と確信がありました。それはつまり、我々がカタログで培ってきた総合通販のビジネスモデルが成り立たなくなるということです。そこからいろいろ手を打ってきて、新たな芽を探るなかで失敗も繰り返しながら徐々に芽が出てきた、というのが今のスクロールの形なんだろうなと思っています。

―そうして今のスクロールグループの形を見ると、多種多様な会社がありますね。

鶴見 これは簡単に言えば経営戦略ですね。事業の塊がどうあるべきかというポートフォリオです。事業M&Aは、自分たちが今まで築いてきたマーケティングスキルを、お客さんが有形無形でどう活用できるかという視点をベースに行っています。ただ、これはお客さんを一人獲得したら、その方をグループ内で囲い込んでできるだけ多くの点数を購入してもらうというようなよく言われる顧客の行き来を想定したものではありません。例えば、弊社の「ブリアージュ」で買っていただいた方をモニターすれば、同年代で同じ属性を持ったお客さんなのでしょうがニーズは全く異なります。今の世の中、ひとりのお客さんが総合通販1社で複数の商材を買うということはありません。これまでのような「リストの活用」が唯一通用するのは単品通販系ではないでしょうか。

―顧客の行き来がないとすると、どのような相乗効果があるのでしょうか。

鶴見 例えば、「豆腐の盛田屋」が新たにグループに加わった時、他社が持つお客様に対して、グループ内の違う機能を持った商品を提案していくということは当然行っていきますが、それとは別に従来の「リストの活用」とはまったく違う意味の相乗効果もあると思っています。例えば、化粧品を製造小売りできるという機能にグループの資産や特長を加えることで、これを市場へどうやってぶつけていくかという新たな発想が生まれますよね。

―そのような意味では、注目しているグループ会社はありますか。

鶴見 2009年にグループ入りした「イノベート」という会社の「コスメランド」というブランドコスメのサイトや、その2年後にグループになった「AXES」(アクセス)というブランドバックのサイトは面白いですね。円安基調なので輸入品のものは苦戦する部分はあるものの、楽天、ヤフーショッピングといういわゆる二大モールではトップ店舗にもなっていますし、スクロールの歴史からみても、このように特徴が際立った店舗を持つのは珍しいですね。

グループ全体の事業資産の蓄積が「スクロール360」によってさらに加速

―特徴が際立っているといえば、BtoBの「スクロール360」もありますね。

鶴見 ええ。スクロールグループの特長であり強みというのは、BtoC、BtoBtoC、 BtoB、の3つを合わせて持っていることです。BtoCはこれまでお話をしたダイレクトマーケティングの分野、BtoBtoCは生活協同組合さんやJAさんという組織を通じて組合員さんに、最終的には消費者に販売しています。そしてBtoBを担うのが「スクロール360」です。これまで弊社が長年培ってきたダイレクトマーケティングスキルのノウハウなど無形のものから、フルフィルメントのセンターという有形なものまでフル活用しながら、同じく通販でご活躍しようというお客さんにサービスしているのですが、これは手前味噌になりますけど非常におもしろい会社だと思っています。通販全体はECがけん引役となってマーケットが非常に伸びていますので、そういった意味でも可能性がある領域だと思っています。

―どのあたりに可能性を感じますか。

鶴見 「スクロール360」の特長は、全方位でビジネスができることにあります。販売支援、システム、フルフィルメント、物流、代金回収、通販に必要なあらゆる機能が「スクロール360」ひとつでワンストップで提供できる。しかも、それはすべて他人の名義だけを借りているものではなく我々が実働部隊を持っている。代金決済にしても「キャッチボール」というグループ会社がある。広告も買えるし、媒体も買える。こういう全方位型の通販サービスをワンストップで提供できる会社というのは、なかなか少ないと思っています。

―このような業態を始めようと考えたきっかけは何でしょうか。

鶴見 今のような形をやろうと思ったわけではなく、もともとはムトウのシステム子会社であった「ミック」が通販パッケージシステムを作ったのが始まりです。今でこそECも含めてパッケージ通販システムが山のようにあってASPで月額何万円から利用できるものもありますが、当時は通販を始めたくても、簡単に利用できるようなシステムが無かったのです。そこでシステムが欲しいという声に応える形で始まりました。でも、通販を始めるのなら電話で注文も受けなくてはいけない。注文確定したら伝票を発行して、商品を届けなくてはいけない。それで気づいてみたら全部自分のグループでやっていた。一時はシステムを売る会社、物流を代行する会社と3つに機能が分かれていたのですが、2007年ごろにすべて統合して一つのパッケージで売るようになったという歴史です。このようにいろんな変遷を経てでき上がったので、今が完成形とも思っていません。

―BtoBをやることで、自社のBtoC事業にも新たな気づきのようなものはあるのでしょうか。

鶴見 そうですね。起点となっているのはやはりBtoCで培ったダイレクトマーケティングノウハウです。これらがインプットからアウトプットまで一つのフローになって、我々のグループ全体の事業資産として蓄積されて、それをやBtoBtoC やBtoBというそれぞれのビジネスモデルが使っていくという「循環」がうまくいくことで、さらにグループ全体のノウハウが蓄積されていくということがあります。もちろん、これは1年や2年でできるものではありません。例えば、BtoBによっていち早く世の中のマーケットの動きの変化に気づき、それがBtoCの戦略にも大きな影響を与えるというようなこともある。このように3つの大きなビジネスモデルがある一定の大きさで絡み合っていくところに、スクロールグループの意味があると思っているんです。利用しているスキルはダイレクトマーケティングスキルであることに間違いないのですが、その中でも先ほど述べた総合通販から一歩はみ出たところ、「脱・総合通販」というのを目指していくうえで、非常に大きな強みになっていると思います。

 

■海外展開する子会社 JADMAへの期待等

BtoBで「越境EC」を提供するためにもBtoCが一歩先にいなければいけない

―「豆腐の盛田屋」の海外展開が業界紙で報じられましたが、グループとしてはどのようにこの動きを加速していくのでしょう。

鶴見 海外展開というとちょっと質問の主旨とずれてしまいますが、最近注目のキーワードに「越境EC」というのがありますね。これはドメスティックな通販サイトにも海外の方がアクセスして商品を買われるということですが、グループ内の我々や「豆腐の盛田屋」や「AXES」というBtoC企業も海外から直接注文が入って、外に出さなきゃいけないという「越境EC」のニーズが高まってきています。「豆腐の盛田屋」の化粧品もインバウンドの需要に乗って、海外のお客さんの認知が高まっています。今まさにコマーシャルをしている「豆乳よーぐるとぱっく玉の輿」などがそうなのですが、このような商品の取り扱いが大きくなると、さらに「越境EC」の対応をしなくてはいけません。また、「AXES」に関しては、楽天グローバルなどの海外サイトからも注文が入るので、国内でEMSの伝票を出して、海外に直接発送するというサービスを始めています。すると、どうなるか。これは先ほどの「循環」の話にもつながってくるのですが、まず我々自身のニーズを満たすことによってシステムを変更して、海外に直接送れるシステムがしっかりしてきますよね。そうなると次にそれを反映したBtoBメニューが「スクロール360」で提供できるようになるのです。実際に「スクロール360」のお客さんにもこの「越境EC」の対応が課題になってきていて、「スクロール360」自体も国内の出荷だけを請け負っているのではなく、海外向けの発送を増やしていかなければいけない。しかし、BtoCで蓄積したノウハウのおかげで既に日本のクライアントにお届けできる段階になっています。

―先ほどおっしゃった「循環」がうまく機能しているということですね。

鶴見 ええ。さらに第2ラウンドとしては、中国などの場合、中国国内保税区に倉庫を借りて、そこから商品を出荷するということも現政府で認められているので、そのようなサービスづくりを進めています。もちろん、中国は政治事情によって市場環境は変わりますが、その時にも「豆腐の盛田屋」のように中国で認知が高まったブランドがあると、スクロールグループとしても進出しやすいこともあります。まったく何も実績が無いところでサービスメニューを出してもお客さんはついてきません。我々がひとつ先に行って道を拓いて、それを「スクロール360」のクライアントにもすぐに実現可能なサービスとして提供することができる。3つのビジネスモデルが相互に関係しあっているというのは、海外展開でも変わりません。

JADMAに会員企業が期待するのは業界の代表として主張する立場

―せっかくなので鶴見社長の個人的なこともお伺いします。休日はどのように過ごしているのですか。趣味などは。

鶴見 趣味と言えるものはないんですよね。ただ、洋服が好きなので、趣味はファッションということにしておきましょうか(笑)。

―スタイルが非常に良いですが、何か運動をされているのですか。

鶴見 たまにゴルフをするぐらいで運動も本当に軽いもの程度しかやりません。スタイルというか体型維持は私の場合、食生活のコントロールを行っています。1日に食べるカロリーを自分の中で2,000キロカロリー以内に抑えています。と言っても、厳密に計算しているわけではなく、昼間たくさん食べたら夜は控えるとかですけどね。夜に酒席がある場合は昼を控えるとか。あとは朝晩に体重を計ることくらいですね。

―自己管理が徹底していますね。

鶴見 やはり洋服が好きなんですね。体型が変わると、服を買い換えるのも大変じゃないですか。30歳後半ぐらいの時、タバコをやめた時にちょっと太ったんです。そこで人生で初めて「このパンツ入らない」っていうのを経験してから加速しましたね。

―この世界に入ったのも、もともとアパレルが好きだからですか。

鶴見 アパレルというか「糸へん」の会社が好きだったんです。と言っても、今の学生さんのように将来的に何をやりたいとかしっかりと仕上げてくるような感じではなく、漠然と好きというくらいなので、あまり偉そうなことは言えないですけどね(笑)。

―最後にJADMAに期待することがあればお願いします。

鶴見 我々のような通販企業や業界の健全な発展に向けて長らくサポートしていただいていますので、引き続きお願いしたいです。また、消費者に信頼を得るための架け橋になって欲しいという想いは当然のことながらあるんですけど、やはり業界の意見を正しく伝えていただきたいという期待もありますね。いま注目されている特商法や消契法の動きを見ると、ルールに従って公正かつ健全にビジネスをしている通販企業各社に多大な影響を与える、やや問題のある改正の方向が見えています。6月号にJADMA元会長の上原先生が、何かが起これば行政はすぐに規制をしたがるが、実はそうではなく、市場を見ながら何をすべきかという風に収斂されていくのが資本主義だという言い方をされたと思うのですが、まさにそのとおりだと思うんですよね。そのような意見を業界の代表として主張する立場というのは、これからも会員各社が期待し、希望することだと思っています。

―本日はありがとうございました。

鶴見 ありがとうございました。

 

 

 

 

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