2015年7-8月合併号 特集 「経営の継承と革新」

よく通販企業は創業者の「人」がそのまま体現されるというが、この人ほどその言葉があてはまる経営者は珍しいのではないか。髙田明――。ご存知、「ジャパネットたかた」を一代で築き上げ、今やテレビショッピングの代名詞にもなった人物である。自らも画面に登場して商品を紹介する語り口は、ものまねタレントまで出てくるほどの抜群の知名度を誇っている。そんな異能の経営者から今年1月にバトンを受けとったのがご子息の髙田旭人氏だ。通販企業にとって「事業継承」が大きな課題であることは言うまでもないだろう。創業者がつくり出したブランドイメージを守りつつも、メディアや顧客のニーズが時代とともに変わっていくため、そこに留まることも許されない。この相反する二つの要素を両立することは、個性が確立している企業であればなおさら難しい。そこで今回は、社長就任をしてもうすぐ半年を迎えようとしている髙田旭人氏に通販企業における事業の継承と革新について聞いてみたい。

 

株式会社ジャパネットたかた 会社概要

代表取締役社長◎髙田旭人
執行役員◎浦明美
設立◎1986年1月16日
売上高◎1,538億円(2014年12月期)
資本金◎1億円
事業内容◎商品のバイイング、ショッピング媒体(TV、ラジオ、紙、Web)制作、商材マーケティング
従業員数◎307人(パート・アルバイト含む)(2015年4月現在)
本社◎長崎県佐世保市日宇町2781
東京オフィス◎東京都港区六本木

 

■新社長としての想い、方針

カメラや店時代は自宅も「コールセンター」電話が鳴るとテレビの音を消す少年時代

――さまざまな場所でお話をされていると思いますが、まずは新社長になって半年近く経過しての振り返りからお願いします。

髙田 対外的には想像していた以上のことはないのですが、社内的には、社長になるとみんなこんなに話を聞いてくれるんだという驚きはあります(笑)。もちろん、今まで聞いてくれなかったわけではありませんが、方針をひとつに統一しやすくなった。まずは自分の信じることをやろうとすごく思える状態にはなりましたね。それは父がそういう風にしてくれたということもあります。会長職にも就かないし、二重構造にもならないというメッセージを出してくれた。父と私でアプローチが違うので、かなり配慮をしてくれました。創業者なので本当は言いたい事はたくさんあると思いますが、基本的には「もうお前のやり方でやるといい」という感じなので。私自身も父のすごさをよく理解しているつもりですが、半年経過して父の守ってきたものについて考える機会が増えて、あらためていい会社を任せてもらったと心から思います。

――創業者と二代目ということでは、大塚家具のお家騒動がありましたが、どうみましたか?

髙田 共感できる部分もあります。たぶん父もそうだと思います。以前だったら、ああいう親子のぶつかり合いを見たら、父親がつくった会社なんだから子どもは譲ればいいじゃないかと思っていましたが、自分が社長になると、そうではなく父の守ってきたものを継ぐ以上、自分の信念や社員のため、そしてお客様のためだと信じてやりたい想いが強くなる。父親の会社なのだから父親の好きにさせたらという二代目は、たぶん会社を継いではいけないんです。そういう意味では、大塚家具の社長(長女)のおっしゃることも共感できますね。

――いつごろから「父の後を継ぐ」と意識していたのですか?

高田 物心ついた時からですね。中学、高校はもちろん、大学選びも、社会人になって証券会社に入った時も、基本的には父の会社に戻った時に何ができるだろうということだけを考えて行動していた気がしますね。親から「継げ」とは一度も言われたことがありませんが、何か自然に、ですね。

――子どもの時から通販をやっていくと考えていたのですね。

高田 そうですね。子どもの時は家に注文電話が転送されていました。もともとカメラ店で徐々に大きくなっていったので夜間に電話を取る人がいなかった。だから夜19時から21時の2時間は家で母が電話を取っていたんです。電話が鳴ると、すぐにテレビの音を消さないといけなかった。でも、その1本の電話で10万円ぐらいのカメラが売れるのを身近に見ていましたから、どう考えても放映しているアニメより電話1本の方が大事です。そういう意味では、生まれながらに通販の血が流れていると思います。

商品のストーリーを伝えながら、 お客様の声を直接聞ける仕組みもつくりたい

――新社長のもとで走り出している新生ジャパネットのビジョンがあれば教えてください。

髙田 これまでのジャパネットは対外的なものと、社内から見たものではかなり違うと私は思っています。社長がテレビに出て直接紹介する、商品に対する目利きなどということがどうしてもフォーカスされますが、実は、裏では父は非常に論理的な経営をしているんです。社長になってあらためて財務や社内の仕組みを徹底的に見直してみると、よくできていると感じます。もちろん、お客様のためにというスタートは変わりませんが、企画やサービスが理にかなっている。そういう意外と知られていない「強み」を継承して磨いていこうと考えています。例えば、紙の制作もずっと父がやっていたのですが、昨年から私が引き継ぎました。そこでは冷蔵庫、エアコンなどの「設置サービス」や「分割金利手数料負担」、「下取り」などと普通に書いていますが、冷静に考えてみると電話1本でこれだけのことをやるってすごく大変ですよね。我々も当たり前にやっていますが、これをもっと丁寧にやっていく。設置に行く人の技術やサービスが、日本全国である程度の品質を担保する仕組みや品質調査を重ねていく。そういう丁寧さでお客様の支持を得ていきたいと思っています。

――ジャパネットといえば、やはりお父様のように社長自らが出演して商品の良さを伝えるというスタイルがありますが、今後はどうなりますか?

髙田 一つひとつの商品のストーリーや背景を伝えるというのは絶対的に守らないといけないものだと思いますが、それを私がやるかといえばそうではありません。うちには制作メンバーがMC含めています。紙媒体のほかインターネットもラジオもあって、それぞれ伝える人がいますから。ただ、どんなに良い話し手がいても、創業社長である父の想いに対抗して絶対に勝てるわけがないと私は思っています。じゃあ何ができるんだろうと考えた時に別のことをやっていく。例えば今はお客様の声を集める仕組みがないので、そのような声を商品紹介に入れたいと思った時に、過去のお客様へお電話してインタビューをさせていただくのですが、手間や段取りがすごくかかってしまう。そこで例えば、ジャパネットの店舗を持ち、そこを訪れたお客様の声を頂戴できればインタビューの手間が省けるのはもちろん、我々も直接お客様の声を聞くことができて、いろいろなことを感じることができる。自分ができることは、そのような環境面のサポートでしょうか。今まさにいくつかアイデアを出しているところです。

 

■テレビ通販は今後どうなる?

お客様視点を取り入れ、働いている人が「認められる」リアルへ

――今後テレビショッピングの未来はどのようになっていくとお考えですか?

髙田 実は我々の場合、テレビショッピングは媒体として三番目なんです。紙、インターネット、テレビ、ラジオという順番で正直どの媒体を使って商品を届けるかということに関しては、あまりこだわりはないです。極端な話、ひょっとしたら5年後くらいには、ウェアラブル端末のようなものが普及しているかもしれないので、そういうものを対象にしているかもしれません。我々にとってあくまで主役は商品で、その良さをきちんと伝える方法であればどのルートでもいいんです。それはテレビも同じで、どの形というのはあまり先入観がないんですよ。今までは30分の番組でMCが一人出て、話して伝えるというやり方でしたけれど、ひょっとしたら人が絡まないインフォマーシャルのような形でも、良さを伝えることができる世界があるかもしれませんし、タレントさんの力を借りた方がいいかもしれません。これまでは「髙田明」という、息子の私から見ても人間的魅力や想いもある人がいたテレビショッピングだったと思うので、変わったことをやれば絶対に「前が良かった」という声が出てくるのは仕方がないですが、それがお客様全体の声なのか一部の意見なのかを見極めることは忘れずに、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。

――テレビ以外にも興味のある媒体やチャネルはありますか?

髙田 私は、通販の欠点というのはお客様とダイレクトに会話ができないことだと思うんですよね。だからチャネルの一つに、その直接のやり取りが混ざってきてもいいと思います。ただやっぱり通販には、コストがかからないとかダイレクトに一気に伝えられるとか良さはあるので、通販からリアルへチャネルを広げるという発想はあまりありません。「オムニチャネル」というと、リアルから通販へ合流するという考え方が一般的ですが、これと逆のことをやる必要はないと思っています。でも、働いている人が認められるリアルはいいかなと。例えば、酒屋さんを開放して見学ツアーを組んだりするイベントがありますが、ああいう企画はお客様にとっても良いですが、働いている人にとっても相当モチベーションのアップになると思っています。日々当たり前にやっている仕事がお客様の視点でみると新しい発見があったり、そういう「認められる感覚」というのを持つためのリアルはあるのかなと思っています。
実はうちも年末に、お客様キャンペーンを実施して100名様をクルージングの旅にご招待させていただきました。そこにうちの社員も同行したのですが、その中にMCをしている河野という女性がいました。いつもカメラの前で話しているものの、本社が佐世保なのでやはりあまり声をかけられないんですよね。確かコンビニの店員さんに一回だけ「ジャパネットに出ていますよね」と言われたようですが。ところが、その旅ではみなさんが「一緒に記念撮影を」などと言ってくださる。話し手からすると非常にうれしいですよね。そのような日々自分たちが行っていることがお客様に影響を与えているのだと実感できるためのチャネルの広がり、というのはこれからいろいろやってみたいと思っています。やはり楽しさを伝えていきたいですね。

物づくりの現場を直接見てその熱い想いを映像でお客様に伝える

――そういうリアルで言えば、MCさんが製造現場まで足を運んで制作行程を紹介するようなスタイルなどはいかがですか。

髙田 そうですね。今まであまりないので、そこをこれからやりたいですね。父はもうジャパネットに籍はなくて、「A&Live(アライブ)」という別の会社を立ち上げており、そこへうちが依頼していろんな番組に出てもらっているのですが、まさしくその方向の番組を制作しています。最近では羽毛布団の製造現場をロケするためカメラクルーを連れてヨーロッパに10日ぐらい取材に出かけました。ポーランド、デンマークなどをまわっていったのですが、やはりその中で製造現場の方たちの熱い想いなどを伺うと、父も同行した社員も本当に感動したそうです。この物づくりの現場を直接見て、それをまた映像でお客様に伝えるということでいえば、ジャパネットには可能性がすごくあると感じています。

――今、工場見学のテレビ番組もすごく人気がありますものね。

髙田 物づくりって、作り手側にはそれぞれ想いがあるのですが、やはりどうしても日々仕事をしているうちに、人間なので自分たちの想いや志を忘れてしまったりすることがあります。それを伝えるのは非常に大事ですよね。買う側も、この製品を作るにあたっていろんな人たちの努力があることを知らないまま買うのか、知ったうえで買うのかで物に対する捉え方がまったく変わってきます。それは妥協してはいけないということをよく私たちも話をしていて、あまりいい言い方ではありませんが、例えば工場へ行き、自分が行ったところなのでせっかくだから売れて欲しいなどというのは十分じゃないと思っているんです。大前提として工場側と会社側の想いがあって、そのうえ良い商品だからさらに感動したという世界を妥協なく作りたいんです。作り手に伺うと思いが溢れてきますものね。それは付加価値ですね。そうなると商品の目利きとか、選択というものがすごく大事になってくると思うんですよ。

――お父様は現在、商材開発、商材発見の旅に出ているのですか。

高田 ええ。そのような旅も増えていますね。講演の依頼をいただいたり、そのほかたくさんオファーは来ているみたいですが、今年まではジャパネットの通販番組に出演するので、テレビメインにやっています。来年以降どの世界に行くのか、私にもわかりません。ただ、理想としてはそういう現場の想いを伝える番組をつくりたいですね。最近そのような番組は自社でも撮っていますが、おもしろいですよ。先日BSで、父が葛飾の天皇家御用達のスプーンなどを見てまわって、それを最後に販売するという番組を放映しました。ロケをしたらやはり父が来ただけでバーッと人が集まってくる。それをカメラに収めたのですが、おもしろかったですよ。

――日本全国まわってもらいたいですね。

高田 そうですね。ただ、本人は世界をまわりたいみたいです。もともとずっと英語が好きで。新卒で英語の通訳を1年ぐらいやっていたんですよ。

――確か、共産圏でお仕事をされていたとか。

高田 そうですね。今は、英語はあんまりって言っていますけど、やはり海外へ行ったら英語をもう一度勉強しようかなとよく話しています。個人的には本人の希望もあるので世界中でショッピングして欲しいですね。

 

■ジャパネットの商品開発

テレビで紹介できない「過剰な機能」は使わない人が多い

――次は商品についてお伺いします。ジャパネットはテレビなどの家電というイメージが強いですが、最近は健康器具など様々な物を扱っていらっしゃいますね。

髙田 5年前の家電エコポイント制度の前はテレビなどのデジタル家電が中心でしたが、この2~3年はいわゆる家事家電、白物家電と呼ばれるところへ大きくシフトしました。そこで原価率が大幅に改善されて最高益という流れになったのですが、自分としてはもうちょっと幅を広げていいかなと思っていますね。現在、社内では10くらいのカテゴリーそれぞれにバイヤーがいて、みなそれぞれに目標を決めて、そのカテゴリー内の最強・最高の一品を見つけてくる。例えば、最強の電気ケトルとか、最高のミシンとか。そしてこれを決めたからには徹底的に売ろう。お客様がたくさんの商品の中から悩むことなく「ジャパネットが言っているんだからこれで間違いない」と選んでいただけるようにする。そういう意味では、まだまだ無限にカテゴリーの広がりがあると思っているんですよ。実際に最近は、寝具などの健康雑貨系の商品が広がっています。

――商品としてテレビなどは、かつての勢いはないということですか。

髙田 そろそろ復活しないといけないと思っています。当社もデジタル家電で8~9割の売上げがあって、テレビだけで800~900億円売り上げていた時代もありました。その頃にテレビを購入したお客様の情報を私たちは知っていて、そろそろ買い替えの時期でもありますので、新しい4Kテレビや大画面テレビを丁寧にご案内していきたいですね。昔は32型が20万円もしていましたが、今は50型くらいでも10万円ちょっとのものがある。ご家庭のテレビが32型から55型に替わることがいかに感動的なことか、しっかりと伝えていこうと考えています。

――顧客の年齢層や男女比を教えていただけますか。

髙田 私たちが商品を選ぶときに想像しているのは、50代、60代、70代という方たちです。一般的に通信販売というのは女性客が多いイメージですが、当社は男性客も半数程度いらっしゃいます。じゃあ若い方にもターゲットを広げるかというと、社内でもよくそういう議論はありますが、若い方のようにたくさんある中から選びたい、比較したいという欲求があって、そういう購買行動をされている方はジャパネットではなく、他の通信販売や家電量販店を利用されます。では、我々がそこに勝負を挑んで電気ケトルのラインナップを5つも6つも並べて「どれがいいですか?」とやっても、そこには価値がないと思っているんです。私たちはカテゴリーごとに最強・最高を選び抜いておすすめする。「いろいろ探すのは面倒くさいし、ジャパネットなら間違いないだろう」と言ってもらうことを目指しているので、結果として年齢の高い方が多いのかなと思っています。というのも、自分が割とそういう購買行動なんですよ。たくさん商品が並んでいても結局どれが良いの?と悩んでしまう。あと機能も多いのでわからない。単価を上げていくためにいろいろ多機能にするのはわかるのですが、そうなるとどうしても説明書も複雑になります。機能一覧を見ても、これはあまり使わないでしょというものもある。そういう時は削りにいきます。

――それは製品の中で不要だと思う機能を取り去ってしまうということですか。

高田 そうです。私は基本的にテレビショッピングで紹介できないような機能は使わない人も多いと思っているので、その機能がない代わりに値段をお手頃にしていくのです。例えば、スマホにつなぐ健康系のリストバンドがあって、コードで接続するものと、ブルートゥースで電波を飛ばして接続したものがあったとします。機能としては後者が絶対に上で値段が高いですよね。でも、年齢が高くて健康系器具を使う方たちの中にはやはり電波が飛んでいるのって何か嫌だなという方もいる。本当に繋がっているのか不安な人もいる。そういうことを議論しながら、この機能はいるのかどうかというのを見極めてメーカーさんにご提案させていただきます。ありがたいことに、基本的に常にどういう商品の機能を上げていくか、はずしていくかというのはかなりジャパネット側の感覚を大事にしていただいていて、メーカーさん側も変えてくださいます。そういう意味でジャパネットには「オリジナル商品」が多いんです。そういうやり方をしていくと我々にとってもやりやすい。例えば、市場で3万円するものと同じ機能のものをうちが2万5千円で売ってしまったらダメじゃないですか。でも、機能が違うので、メーカー側もやりやすいですよね。何故ジャパネットはあんなに安いんだという声があっても、「いや、あれは機能が少ないんです。だから安いんですよ」という説明ができる。

「目利き」の基準は「儲かるから」ではなく、「良い製品か」と「創業者ならどう考えるか」

――そうなると、逆にあのジャパネットで売っている機能の商品は買えないのかという声も出てきそうですね。

高田 そうなんです。実は、それは実際に多いらしいですが、メーカーさん側もうちの感覚を大事にしてくださっているので、「あの商品ができた経緯は、ジャパネット側がお客様からの声で作ったものですので」と答えてくださっているようです。機能を当社独自の見極め方で変えていくことにご理解いただいているメーカーさんが増えたのは、本当にありがたいことです。

――そのような商品に対する“目利き”の基準というのは、何があるのでしょうか。

高田 やはり「創業者だったらどう考えるだろうか」というところがすべての軸になっています。それは制作にもバイヤーにも染みついていますね。私自身も父の判断にすごく賛同するところが多いので、もし彼らが判断に迷って相談されても9割9分父と同じような考えを提示する自信はあります。あとは、「そもそも、これはモノが良いの?」と立ち戻って考えることは常にやっていますね。「儲かるからやりましょう」というような発想のバイヤーはまずいませんし、「それはジャパネットじゃないよね」と私が諭すような機会もほぼないというのは、非常に社員に恵まれていることだと思っています。

――そうやって社内で「そもそもモノが良いのか」という議論をしていくとなると、議論の末に今回は紹介を見送ろうということもあるのですか。

高田 ありますね。明らかに不具合があればしょうがないですと言えますが、不具合はなくても我々の考える最強・最高と違った場合、私が商品担当だったのでバイヤーとともに、メーカーさんにご迷惑をお掛けすることは承知のうえで、こちらは出せませんでしたが違う商品で頑張ります、という交渉を行っていました。やはりテレビショッピングですので、良い商品であり続けることは絶対的に守らないといけません。一般的にはそれは品質管理部を強化するというやり方もあるかもしれませんし、それはそれで大事ですが、結局、品質チェックというのは機能的に問題がないかとか、安全性はどうかということはチェックできても、その商品がどれくらいの付加価値を生むかというのははかりかねます。「ジャパネットらしさ」ということを考えると、もっと直感的に良い商品だと思ったものをお客様にも体感していただいて、自信を持ってご紹介するという流れを作ることだと思っています。制作の現場や話し手がダイレクトに商品の良さを実感していく環境を作れたら、もっと理想的な会社になるんじゃないかなと思っています。

 

■ジャパネットの企業文化と継承

ネガティブなことを言わない創業者が生んだ「何かのせいにしない」という社員文化

――先ほどの目利きの感覚の時に創業者の想いが浸透しているとおっしゃいましたが、これをスムーズに行えた背景にはどのような企業文化があるのでしょう。

高田 ひとつには社長との距離の近さですかね。私も父が社長の時、近くで見ていて思いましたが、社長と社員の距離が驚くほど近いんですよね。社長へ社員から直接、報告メールが飛んできて、社長はすぐ「ありがとう」みたいな返信をする感じで、私もその感覚はありますし真似させてもらっています。あとは景気などのせいにしないということもあります。例えば売上げが落ちると、景気が悪いからとか政治が悪いからとか、父にはそういう発想は全く無くて、景気に左右されるのは当たり前という考えなんです。だからジャパネットの中にいると景気の波って全く感じない。父がそんなの全く加味しない人なので、社員の誰もが「ITバブルっていつだっけ?」みたいな感覚ですね。今、特に感じることですが、家でもまったくネガティブなことを言わない両親だったんですよ。あとは、社内向けとかお客様向けとかで発言や態度を変えたりすることがないというのも大きいかもしれません。例えばこういうインタビューでも、父も私も特に喋ってはいけないことなどない。その時の気持ちを正直に話している。例えば昨年7月に、地元・佐世保の講演でいきなり社長退任の話をしたのもそうです。我々も驚きましたから。つまり、取材用とか社内用とかお客様用とかで立ち振る舞いを分けていない。そういうアンマッチ感の無さを社員がよくわかっているということも大きいと思います。そういう発想がないのは私も父と同じで、いろんなことを喋り過ぎてしまうのも父とよく似ていますね(笑)。

――カリスマ社長のようになってしまうと周囲から近寄り難いというか、一般社員がなかなか意見を言えないということもありますよね。そういうことはなかったのですか。

高田 もちろん、社長と社員ですから、そこにまったく垣根がないわけではないですが、自分と逆の意見を述べた者に対しても受け入れる姿勢でいたということはあると思います。私も同じですが、父は社員に距離を感じた動きをされるとすごく寂しい気持ちになるんです。だから、思ったことをストレートに伝える。すべてを正直に話すということを非常に大事にしていました。そういう感覚はまったく変わらない。私が言うのも何ですが、非常に人間的な経営者だと思います。例えば、良い商品だから2万本がんばろうという商談をしていても、その後に生産現場へ行き、作っている人や営業担当の熱い想いを聞くと「じゃあ3万本やるぞ」という感じの人なんです。周囲から、過去のデータからみても2万本でしょという意見があっても、これだけの想いを伝えれば絶対にいけるという人なんです。先ほどお話しした羽毛布団も、そういう経緯で当初の予定よりも数を増やしたんです。その一方でいくら2万本売ると用意していても、商品に問題があったり、これは売れないとなるともう絶対できません。単に情に流されているというのではなく、自分の感覚を非常に大切にしているんですね。そこはすごく勉強させてもらいました。

人材採用のポイントは「いい人」 社内結婚も多く「子ども会」も誕生

――お父様の退任後に入ってくる社員には、今後どのような形で創業者の想いを伝えていくのでしょうか。

高田 まさにそこが自分の大きな役割だと思っています。クレドなどを作って配布するのもひとつの方法でしょうが、それは方法でしかないのでやはり一貫性が必要だと思っています。どんな素晴らしいクレドを作っても評価制度、人材の登用、教育制度、日頃の発言などすべてが創業者の想いに繋がっていないと矛盾が生じてしまう。そうならないために、今は周囲に助けられながら種まきをしている段階です。あとは“空気感”ですね。それがぶれだすと会社自体が変わっていってしまう。採用などは典型で、うちではどんなに経験があっても基本的に空気感が合う方でないと採用しません。新卒も毎年50名くらい採用しますが、最も重視するのは毎年変わらず「いい人」という点ですね。もちろん私のところにくる前の段階で面接官がいろいろチェックします。例えば、何かのせいにしないで自分自身の力で困難を乗り越えてきたか、などがありますが、学生時代からベンチャーやっていましたという突出した経歴よりもやはり「人」を見ます。私自身、学生から社会人になってすぐに戦力になるわけがないという考えもありますが、やはり素直で謙虚にいろんなことを受け止めて努力する「いい人」に、仲間に加わって欲しい。だから結果的に社内結婚が多いんです。社内の平均年齢は31歳ですが「いい人」ばかりなので、気がつけば70~80組のカップルが誕生しています。子ども会というイベントがあって参加者は100人以上いますよ。我々もどの子が誰の子どもか大体わかるようになってきました。先日、社員旅行では約380人でロサンゼルスへ行き、ヤンキースの試合を観戦してきました。残念ながらマー君の登板の日ではなかったんですけどね(笑)。

――すごく家庭的な雰囲気の会社ですが、これはやはりお父様の影響でしょうか。

高田 そうかもしれませんね。うちは変わった家庭で、両親とも「子どもは親に合わせるもの」という価値観だったのです。だから、家に社員の皆さんを呼んで飲み会をする時も、夜中であっても参加します。子どもであっても会社の人たちと一緒にいてご飯を食べ、その場で寝て、みたいなのが当たり前でした。会社の従業員の皆さんは家族の一員みたいな感覚です。

――新しいジャパネットを楽しみにしております。本日はありがとうございました。

 

 

 

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