2015年4月号 特集 「顧客ロイヤリティをどう築くか」

店舗を持たず対面接客もしない通信販売にとって、いかに顧客の「ロイヤリティ」を獲得するかというのは永遠のテーマではないだろうか。魅力的な製品、高度で充実したコミュニケーションで口コミを増幅してお客様から「ファン」をつくっていく――。理屈ではわかっているが、実際にそれを成し得ている通販企業は数えるほどしか存在しない。そこで今回はドクターズコスメのパイオニアとして市場を創出した後も40%という圧倒的なシェアを誇り、No.1を堅持するドクターシーラボに登場してもらおう。10年以上も売れ続ける脅威のロングヒット商品アクアコラーゲンゲルなどを生み出す唯一無二のロイヤリティがいかにして獲得されたのか、そして何を意識してここまでやってきたのかを神戸聡取締役に教えていただいた。

 

株式会社ドクターシーラボ 会社概要

◎本社   東京都渋谷区広尾1-1-39 恵比寿プライムスクェア14F
◎設立年月 1999年2月
◎資本金  12億920万円(2015年1月末)
◎売上高  177億5,799万円(2015年7月期 第2四半期)
      (ご参考)
      359億1,684万円(2014年7月期 通期)
      167億4,450万円(2014年7月期 第2四半期)
◎従業員数 704名(連結)、626名(単体)(2014年7月末)
◎代表者  代表取締役社長 石原智美
◎事業内容 化粧品・健康食品・美容機器等の企画・開発・製造販売

 

■メディカルコスメ市場の創造と成長

通販を始めるきっかけとなった「代引きで送ってよ」の一言

――メディカルコスメの先駆けとして市場を新たに創造したという印象もあるドクターシーラボですが、まずは誕生の経緯を教えていただけますか?

神戸 もともとは今もシロノクリニックの総院長で現役の皮膚科医を務めている城野親德取締役会長の、メスを用いる治療よりも安全に患者様が望む肌にしていきましょうという思いから20年前に開業したものです。当時はまだニキビ治療などで病院へ行くという人も少ないながら、一方で肌のシワやハリという女性の悩みも増えてきた時代でした。そんな中で治療を行っていて合点がいかないところが出てきました。レーザー治療が終わって数週間後にまた来院されると、思ったより肌の状態が良くなっていないんですね。どういうことかと探っていくと、どうも自宅でのスキンケアが十分ではないということがわかりました。皮膚科医の見解としては肌にとって一番大切なことは水分による保湿です。これができれば肌も自然に回復していきますが、当時はそういう視点のスキンケアがなかった。そこで城野は自分でいろいろな研究を重ね、院内処方で天然由来のゲルを使ったものができました。それが口コミで全国に広がったのですが、これはあくまでお薬なので処方箋が必要でなかなかお客様のご要望にお応えできませんでした。そこで7千人の肌データを取って新たに化粧品として開発しようということになり、シロノクリニック内にコスメ事業部ができました。ただ、そんなに簡単なものではありませんでした。薬なら気にならない匂いも化粧品となると問題になってくる。テクスチャーも薬ならベタッとしていても気になりませんが、化粧品ならば使い心地の良い使用感にしなければいけない。まさしく試行錯誤を重ねながら開発されたのがアクアコラーゲンゲルです。これができたのが1998年12月12日で、翌99年2月26日に事業部から会社になったという流れですね。これでようやく全国のお客様のご要望にお応えできるようになり、その中で通信販売という形も出てきました。

――もともとは通販を念頭に置いていたわけではないのですか。

神戸 ええ。当社はもともと「肌トラブルに悩む全ての人々を救う」という企業理念があっただけで、化粧品の通販会社を作ろうと思ったわけではありません。ですから当初は単に商品を開発してクリニックでお売りするという話でしたが、実はきっかけがあるのです。ある時、お客様から「代引きで送ってください」という電話がありました。それを受けたのが当時、営業・マーケティング部長だった石原智美代表取締役社長です。これは笑い話ですが、石原は「代引き」のシステムがよくわかりませんでした。そこで運送会社さんに問い合わせたところ、「これは便利じゃないか」ということで始めたのです。つまり、お客様の「代引きで送ってよ」という要望に応える形で通販が始まったという感じです。

 

「結果」を出し続ければ一度離れた顧客も戻ってくる

――顧客を獲得していくうえで心掛けたことはありますか。

神戸 やはり一番大きなことは「結果が出る」ことだと思っています。それが口コミに結び付いて顧客になってくださっているわけですから。当初よく周囲から、「シーラボさんってかなり宣伝してますよね」と言われたのですが、実は宣伝はほとんどしていなくて、雑誌の編集者やライターさんが自然に取り上げてくれたり、バラエティストアの店員さんのオススメとして紹介してくれたりという口コミなんですね。先ほど申し上げたように「代引き通販」から始まり次の販路として卸売を模索している時、外資系化粧品専門店さんからお声がけいただきました。アメリカなどではドクターズコスメの市場はスキンケアの中の50%以上のシェアを占めています。そこで日本でもそういった時代が来るだろうということでお話をいただいたという経緯でした。店頭で商品を知り、実際にお使いいただいたお客様が「ああ、いいわね」というような口コミを広げてくれたことが当初はすごく大きかったと思います。

――そのような時代を経て、現在はドクターズコスメ市場もすっかり定着して他社も出てきました。パイオニアとしてはどう見ていますか。

神戸 これは理想論かもしれませんが、当社は日本中、或いは世界中の人々の肌トラブルを救うという企業理念があるので、そのために他社さんと切磋琢磨して全体の底上げができればいいかなと思っています。あとは他社がどうのこうのというよりもやはり自分たちがいかに「結果を出す」ことを続けられるかでしょう。業界の常識として、一度離れたお客様はなかなか復活していただくのが難しいと言われていますが、当社の場合は結構長いブランクがあっても普通に戻ってきます。実際に「いろいろ試してみたけれどシーラボのゲルが一番良かったわ」というありがたいお声を頂戴しています。

 

■ブランド構築とソーシャルメディアの活用

「結果」と「わかりやすく」がブランド構築に結び付く

――新しい市場をつくっていく一方で、しっかりとしたブランドづくりも成功している印象です。イメージ戦略などの秘訣を教えてください。

神戸 我々の化粧品は夢を売るものでなく、「結果」を売るものだと意識しています。当社は有名タレントを使ったテレビコマーシャルなどはつくっていませんが、これは我々のゴールが商品の認知度を広げることではなく、どういう結果が出るかを伝えることだからです。やはりそういった「結果」を出し続けていくことが一番のブランドだと思うんです。

――確かに、商品のパッケージも機能性イメージを打ち出していらっしゃるようなデザインですね。

神戸 会報誌でもそうですが、「わかりやすく」ということをすごく意識しています。あとはお客様が商品に対してきちんと期待が持てるような形にするということですかね。やはり商品を手にとって見てもらうというのはすごくたくさんのハードルがあると思うんですよ。当社の商品は安いものでも3000~5000円くらいしますし、高いものだと1万円近い商品もある。ジェノマーという百貨店のブランドですと1~3万の価格帯ですから、そこに対してきちんと期待感を持っていただく工夫はします。いくら品質の良い商品でも手にとってもらえないと効果を感じていただけませんからね。

――今お話に出たジェノマーに加え、ドクターシーラボ、ラボラボという3つのブランドをお持ちですが、それぞれ顧客層を教えてください。

神戸 ドクターシーラボは40~50代の方がメインで、ラボラボは若干そこから若めで20代後半から30代にかけてという感じでしょうか。ジェノマーは年齢的にはある程度幅広くなりますが、エイジングケアなど肌に対してより成熟した考えを持っているようなお客様が多いですね。

 

SNSはある程度の個人裁量、気を付けすぎないことを心掛ける

――御社はソーシャルメディアに力を入れているイメージがあります。神戸さんご自身もよくツイッターでつぶやかれていましたよね。

神戸 そうですね。当社の企業理念をどうすれば実現できるかということを入社してからすごく悩んだ時期があって、シーラボを知らないお客様だけでなく、メディカルコスメやオールインワンゲルについて知識のないお客様も含めて、肌トラブルに悩むすべての女性をどう救えるのかと考えていたちょうど矢先、ソーシャルメディアというものが台頭してきたので「あっ、これだ!」って直感的に思ったんです。そこへ早めに突っ込んでいこうというか、まずは自分でやってみようという思いがあって、とにかく肌トラブルなどつぶやいている方を検索して話しかけてみました。当時はアクティブフォローのような言葉自体なかったので、もちろん嫌がられる方もいて、「あんた誰?」みたいなこともよくありました。そこで自己紹介ではないですが、「私はドクターシーラボの神戸という者です」から始まって、そういう肌トラブルをお持ちでしたら、当社のサイトを一度覗いてくださいみたいなことをつぶやきました。そこで営業するのではなく、まずは知っていただくということですかね。

――口コミサイトの開設なども早かったですよね。

神戸 そうですね。通販にせよ、店頭販売にせよ、企業側からセールスするよりも、やはり最高なのはお客様から指名買いされることだと思うんですよね。そうなると、お客様同士で商品の良さを語ってもらう場所が必要だろうと口コミサイトをつくりました。コンテストなども行っているのは同じ考えですね。リフトアップケアをしてハリ肌を叶えるコンテストであったり、美禅食でダイエットを応援するコンテストであったり、表彰式の会場で知り合ったお客様同士が交流されたり、本当にそのパワーがすごく強いと驚きましたね。それこそ会社の中で商品のキャッチコピーを考えるよりも、お客様がつぶやいた方がよりわかりやすいというのがあって、勉強になることがすごく多いですね。

――ソーシャルメディアでもそういうことがありますか。

神戸 もちろんサービス面もありますが、商品開発でもありますね。例えばデオドラントソープという消臭石鹸がありますが、その開発の発端は、以前に作ったバラの香りのフレグランスサプリメント、ローズチャージについてお客様がつぶやかれたことです。

――お話を伺っていると、成長していくうえでお客様の声を非常に大切にしている印象ですね。

神戸 そうですね。まず会長の城野自身も皮膚科医として毎日のように患者様の声を聞いているということもありますし、社長の石原もコールセンターのクレームからお褒めの声まで毎日平均500件ぐらいは目を通しています。

――ソーシャルメディアの活用にあたって気を付けていることはありますか。

神戸 語弊があるかもしれませんが、「気を付けすぎない」ことを心掛けています。企業のSNSの利用には制約を設ける場合もありますよね。でも、個人個人がきちんと会社の代表者という自覚を持っていれば、個人のアカウントでどんどんいろんな発信やコミュニケーションをしてもいいと思うんですよね。もちろん、個人情報や守秘義務などは守らなければいけませんが。

 

■マルチチャネルで幅広い顧客層を獲得

オムニチャネルは企業目線、お客様にはあまり関係がない

――ドクターシーラボには通販だけではなく、店舗や卸売などいろいろな販売チャネルがありますが、それらの棲み分けについて教えてください。

神戸 その前にまず申し上げたいのは、当社は決して通販が主力ではないということです。確かに売上げであれば通信販売、中でもカタログ販売、電話受注のところが一番になっていますが、それはあくまで我々の話に過ぎません。販路は百貨店、GMS、バラエティショップ、ドラッグストアなどがあり、その中でどれが主力かは会社側が勝手に決めているもので、お客様から見ると何の関係もないでのす。お客様の立場からすればドクターシーラボをご支持くださり、お客様一人ひとりのご都合でご購入される場所を選ばれている。ですからどこが主力だとか棲み分けということではなく、すべての販路でお客様ががっかりしない接客や応対をしていくということが重要だと思っています。よくIR的な取材の時はECのシェアが伸びて利益率も上がっているので、来期のシェア目標は何%ですかなどと質問されるのですが、それは当社が考えることではないんですね。大切なのは、それぞれの販路の利便性をすべて偏りなく高めることで、その中からどの販路を選ぶかはお客様のご都合なのです。

――それはオムニチャネルを意識されているということでしょうか。

神戸 最近言われているオムニチャネルという概念は、その会社のいろいろな販路を使って最終的にはその会社で一番の強みの販路でご購入・お受け取り頂くという話だと理解しています。それでは結局は企業目線で、お客様にはあまり関係がないんですよね。そういう意味ではやはり我々が重視するのは、すべての販路でお客様の利便性を向上することで、どこでご購入頂くかという意識とは大きなギャップがあります。やはり販路というのはお客様の本音などが解放されたリアルな場だと思うんですよ。例えば店舗の中での対面販売は、当社の商品を買うとか買わないとかのやり取りがあって非常にリアルなんですよ。オムニチャネルを意識するというのではなく、そういうお客様との語り合いの方が今後はより必要になってくるかなと思いますね。

 

ロイヤルカスタマーにするには、記憶に残るような「驚き」を

――すべての販路の利便性を高めるために意識していることは何でしょうか。

神戸 お客様がドクターシーラボを忘れないよう記憶に残すことをすごく意識しています。よく通販だと年に数回以上利用したお客様を「ロイヤルカスタマー」と呼びますが、これも我々が勝手にそう決めているだけで、お客様の立場に立った時、必ずしもその企業に「ロイヤリティ」があるかというと別ですよね。お客様は我々が考えているほど我々のことを意識していないと思うんですよ。ですから、お客様が驚くくらいのことをして初めて記憶に残ると思っています。よくカスタマーサティスファクション(顧客満足度)をCSと言いますが、当社のCSはカスタマーサプライズなんですよ。

――具体的にどのようなことをしていますか。

神戸 キャッチフレーズから商品の作り方までいろんなところに「驚き」を散りばめるようにしています。Webサイトやメルマガ一つとってもそうですし、ソーシャルメディアでは当社の人気キャラクター「もちみちゃん」のキャンペーンを行っていますが、ファンもついてきたので、コースターやミラーのようなキャラクターグッズを作りました。だいたい1カ月ぐらいは持つだろうと見込んだ数量を用意していたのですが、ふたを開けたら10日間で完売してしまいました。こういうキャンペーンも記憶に残すことができたかなとも思いますね。

――御社は海外にも進出されていますが、今後の展望をお知らせいただけますか。

神戸 海外の店舗数は3月現在、香港8店舗、台湾8店舗、韓国2店舗、シンガポール1店舗の19店舗です。海外でも通販(Web)を展開しており、前述の4カ国に加え、米国でもご購入頂けます。アジアの方とは親和性が高いんですが、欧米の方だとちょっと求めるものが違っています。もちろん、肌質や生活環境の違いがありますが、何よりもドクターズコスメやメディカルコスメに関する概念が違う。日本のドクターズコスメのイメージは、お医者さんが作っているから安心ですよねというものですが、欧米では完全に治療するというものです。その違いの中でうまくバランスを取っていくことがすごく重要になってくるのではないでしょうか。同じことはアジアにも言えますが、お客様の肌質としては似ているので、こちらもそれを踏まえて積極的にお届けしていきたいなと思っています。

――最後に、JADMAに期待することや、こういうことをもっと行ってほしいということがありましたらご意見いただけますか。

神戸 私たちの目標はやはり「世界中の肌トラブルに悩む人々を救う」ということです。そのためのドクターズコスメ、メディカルコスメというものがどういう風になるべきかという点でいろいろお力をいただければと思います。また、通販業界が抱えるさまざまな課題があると思いますが、そういう声を公益法人として社会に届けて広く議論ができるようにしていただきたいですね。

――お忙しいところ、ありがとうございました。

神戸 ありがとうございました。

 

 

 

 

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