2015年3月号 特集 「女性顧客の心を掴むには」

 

■女性のライフスタイルの変化と4つのキーワード

「エアウィーヴ」が大ヒットした背景にある「ロングレンジ思考」

―2015年版の「しあわせ予報」でも触れているように、女性のライフスタイルが大きく変化していることについて、いかがお考えでしょうか。

和田 やはり社会環境の変化がベースにあると思うんですよ。2008年のリーマンショックや、2011年の東日本大震災がライフスタイルの変化に大きな影響を与えたのは事実ですよね。そういう目で今を見ると、消費税が上がっただとか、或いは情報環境でPCからスマホにどんどん変わってきたりとか、或いはいろんな企業がオムニチャネルに取り組み始めているとか、いわゆる生活環境が変わることによって、女性たちの気持ちが変わり、それが結果、行動や生活スタイルの変化に繋がっている。我々はこういう目で今を分析して、4つのキーワードを掲げています。ひとつは、「ロングレンジ思考」。要は、中長期的に物事を見ることになって、今日明日得するとか損するではなく、長いスパンで物事を考えるようになってきている。この兆候は、リーマンショック以降続いています。当時、「しあわせ予報」の作業でフリーアンサーを2,000件ぐらい読みましたが、意外なことに主婦というか女性たちは案外みんな前向きなんですよ。節約が大変だけど、こんな工夫をして乗り切っているというようなお話がたくさんあったのです。節約を特に苦と思わず、前向きに乗り越えていくような購買行動も出てきている。例えば、LED電球もそうですし、ハイブリッド車とか省エネ家電とか、そういうものがかなり普及してきました。或いは安心・安全面で見た時、健康に悪いものは食べたくないので健康に良いものを食べたい。それによって長く健康を維持したいという考えから、生産者が見える「道の駅」や産直みたいなものが脚光を浴びるようになりました。最近では衣料品もそうですよね。「メイドインジャパン」のように長い目で見ると、高くても長持ちするものが見直されてきました。例えば、エアウィーヴという6〜7万もする寝具がかなり売れていますよね。あれも結局、長い目で見ると人生の3分の1は寝ているので、決して高くないということだと思うんです。
2つ目のキーワードが「生産者志向」です。2008年の「くらしのたまご」当時から、保存食や家庭菜園という”手作り”に対する関心はありましたが、当時はまだ1〜2割でマーケット自体はとても小さかった。それが最近になって改めて定量調査にかけると増えてきているのです。DIY人気やふるさと納税などは典型ですが、最近の傾向としてはこれまではなかったC to Cのマーケットが増加していることでしょう。例えばスマホのアプリでも「メルカリ」や「フリル」のようにネット上でフリーマーケットに参加できるアプリが増えてきています。あれも自分の商品を売って対価を得るという意味では生産者志向ですし、「tetote」や「ミンネ」みたいなハンドメイドの売買サイトも、ダウンロードする女性が増えています。

和田 生産者という意味では、自分が生み出したレシピを載せるクックパッドもそうですし、自分で作った動画をアップするユーチューバーもそう。これまで多くの人が消費者という立場だけだったのが、一方で生産者としての顔も持つようになってきたということでしょう。

新聞・ネットから抜き出した100の「点」を「線」に繋げてキーワードを浮かび上がらせる

―あと2つのキーワードは何でしょうか。

和田 3つ目は「シンプル嗜好」です。少し前にブームになった「断捨離」のように、とにかくシンプルに、引き算の暮らし方に注目が集まっています。こちらもやはりリーマンショック後に芽生えたニッチな意識が、ここにきて一つのマーケットを形成するほどになってきています。最近では、洋服の借り放題サービスやカーシェアリングなどもこれに当たると思います。とにかく余計なものは持たない。最近、非常に人気のあるグノシーやスマートニュースというキュレーションメディアもそうですよね。
―ニュースもシンプル嗜好なのですか?

和田 あれは要するに、毎日膨大な数のニュースがある中で引き算して必要なものだけをお届けしますよ、というサービスですからね。情報過多社会の中の「シンプル嗜好」をうまくとらえたビジネスだと思います。そして、いよいよ最後になりますが、4つ目のキーワードとして「つながり指向」ということが言えると思います。やはりこれは東日本大震災という未曾有の災害によって、家族や地域との繋がりや、社会貢献ということがあらためて見直されたことが大きいと思います。ネット上でプロジェクトを立ち上げて、多くの人に投資を募るクラウドファンディングなどが始まって活性化していますが、やはり「つながり指向」の典型はLINEでしょう。スタンプを介した感情コミュニケーションが今や本当に当たり前になってきていますものね。これはこじつけかもしれませんが、東日本大震災を境にして、「つながり」を求める気持ちが生まれた結果、今のような「つながり」をベースにしたサービスが拡大しているような気がしています。TwitterにしてもFacebookにしても、震災前はまだそんなに大きなボリュームじゃなかったけれど、震災を境に急速に拡大した印象ですからね。先ほどの「生産者志向」も「シンプル嗜好」も2008年当時から見られたものであり、変化には中長期的な部分があります。ですので、この4つのキーワードもたぶん、これからも続いていくのかなと感じていますね。

―これはビジネスを考えていくうえで、いいヒントになりました。このようなキーワードをどのようにして見つけるのですか。

和田 まず、みんなで手分けして新聞、雑誌、ネットなどから月に100くらいの情報をクリッピングします。そのような「点」の情報を今度は「線」になるように繋げていく。そこで浮かび上がったキーワードを2週間に1回、社内向けに発信しています。

―千趣会さんのような研究機関を持たない企業が多いので、何か個人でできる調査のポイントがあれば教えてください。

和田 やはり基本はクリッピングだと思います。僕の場合、毎朝30分から1時間くらいかけて決まったサイトをチェックしています。業界の動きもわかるので、流通ニュースなども見ていますよ。その中で気になったことを自分のメモ帳に書き溜めておいて後で見直せば何かしらのキーワードが見えてくるものです。ただ、これもあくまで僕のやり方ですから、正解はありませんよ。

 

 

 

 

 

>>JADMA NEWS 掲載情報 目次に戻る場合はこちら

>>JADMAのホームページはこちら